重度の呼吸困難で来院される患者さんの診断は、時に非常に困難です。
それは、ストレスをかけること自体が状態の悪化を簡単に招いてしまうからです。
ストレスをかけない検査としては聴診がありますが、聴診では実際にどこがどのように悪いかは全く判断ができません。
また、中〜高齢の患者さんでは心臓疾患を伴っていることも多く、肺炎からの肺水腫(肺の中に水が溜まる状態)か、心臓病からの肺水腫かは誤診されることも多いです(正確には誤診ではなく、判断できないと言ったほうが良いでしょう)。
最低限の情報としてレントゲン検査は、ストレスはかかってしまいますが、行いたい検査です。
レントゲンなしでは、次の治療方針を立てるのも難しく、酸素吸入などの対症療法しかできないのが実際です。
レントゲン検査や血液データなどを参考に治療方針を立てていきますが、それでも間違った方向性に治療が行ってしまうことがあるのも否定できません。
したがって、状態の悪い積極的な検査が行えない患者さんに対しては、治療に対する反応性を評価して、診断を組み立てていくことが多いです。
治療に関しては、ステロイドの使用が問題になることが多いです。
犬ではステロイドが必要な喘息などの病気はかなりまれですが、猫では喘息や好酸球性肺炎などのアレルギー疾患が比較的多く見られます。
これらの病気はステロイドに非常によく反応してくれるのですが、他の疾患ではステロイド投与により悪化してしまう場合があるからです。
その診断の助けになるもので、最近、患者さんを酸素ボックスに入れて、無麻酔でCT検査をするという方法があるらしいです。
近年の高価なCTは64列を一度に撮影できるものがあり、全身を撮影しても30秒とかかりませんので、従来は麻酔、あるいは保定下でしか検査できなかったCTを、自由な状態でストレスをかけずに行うということです。
この検査では、動きますので微小な病変の評価はできないこともありますが、状態の悪い子のは非常に有効な検査法だと思います。
重度の呼吸困難の場合は、全体を評価できればよく、また肺の中の血管系まで評価できますので、ある程度心臓が原因かどうかの鑑別にもなると思います。
難点としては、単にCTがあるというだけでなく、最新の高価なCTのある病院でなくては検査できず、検査費用も高額になるということです。
しかし呼吸器疾患は、死に直結するものですので、こうした検査がより一般に普及すると良いですね。
2011年11月30日
呼吸器疾患の診断
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| 呼吸器
2011年11月23日
動臨研に行って来ました。
先週末の土日、お休みを頂いて大阪まで動物臨床医学会年次大会に参加してきました。
動臨研に参加するのは2年ぶりです。
この学会は、セミナーもありますが症例検討会が多いという特徴があります。
今年の学会で思ったのは、あまりに発表の質に差が大きいというものでした。
これは、高度獣医療をしているかどうかではなく、一つ一つの検査の質、診断、治療の考え方に対してです。
高度な医療機器が普及して、CTやMRIといった診断ツールは、発表の場では珍しくなくなっています。
その一方で、非常にポジションの適当なレントゲンフィルムが非常に多く見られました。
近年はデジタルレントゲンの普及で、気軽にレントゲンを取る獣医師が増えましたが、レントゲンの専門の先生はやはり生のフィルムのほうが読影の範囲が広いと口をそろえて行っています。
デジタルのレントゲンは生フィルムで正確な評価ができる獣医師でないと、病変と作り出したり、消したりが簡単にできてしまいます。(誤診につながります)
また、レントゲンは正確なポジショニングで綺麗に取らないと容易に病変の見落としを起こします。
そのようなレントゲンで評価した基で、CTなどの高額な検査をしている例が多々見受けられました。
また、診断治療についても、獣医師が何人もいるような病院でありながら、きちんと標準化されている確定診断手順を踏まずに、暫定的な診断で、副作用の強いかつ効くという報告もないような抗癌剤を使用していたりします。
これは、おそらく獣医学的な好奇心が先走ってしまった結果だと思われますが、高度で侵襲的な獣医療をすすめるのであれば、より深く探求して十分な裏付けをとってから行うべきでしょう。
一方で、一般的な開業獣医師ではほぼお手上げな状況の子でも、諦めることなく積極的に治療して、その後年単位での生存、QOLの改善を得ている発表もありました。
ただし結果論であって、いつでも同じ治療が最善ということはありません。
しかし、こうした症例報告などの積み重ねが、今日の診断治療の基礎になっていることは確かで、学会で報告をして下さる獣医師のみならず、そうした積極的治療を選択された飼い主様にもほんとうに頭が下がります。
そのような方々の上で、より良い治療の提示ができることに感謝いたします。
動臨研に参加するのは2年ぶりです。
この学会は、セミナーもありますが症例検討会が多いという特徴があります。
今年の学会で思ったのは、あまりに発表の質に差が大きいというものでした。
これは、高度獣医療をしているかどうかではなく、一つ一つの検査の質、診断、治療の考え方に対してです。
高度な医療機器が普及して、CTやMRIといった診断ツールは、発表の場では珍しくなくなっています。
その一方で、非常にポジションの適当なレントゲンフィルムが非常に多く見られました。
近年はデジタルレントゲンの普及で、気軽にレントゲンを取る獣医師が増えましたが、レントゲンの専門の先生はやはり生のフィルムのほうが読影の範囲が広いと口をそろえて行っています。
デジタルのレントゲンは生フィルムで正確な評価ができる獣医師でないと、病変と作り出したり、消したりが簡単にできてしまいます。(誤診につながります)
また、レントゲンは正確なポジショニングで綺麗に取らないと容易に病変の見落としを起こします。
そのようなレントゲンで評価した基で、CTなどの高額な検査をしている例が多々見受けられました。
また、診断治療についても、獣医師が何人もいるような病院でありながら、きちんと標準化されている確定診断手順を踏まずに、暫定的な診断で、副作用の強いかつ効くという報告もないような抗癌剤を使用していたりします。
これは、おそらく獣医学的な好奇心が先走ってしまった結果だと思われますが、高度で侵襲的な獣医療をすすめるのであれば、より深く探求して十分な裏付けをとってから行うべきでしょう。
一方で、一般的な開業獣医師ではほぼお手上げな状況の子でも、諦めることなく積極的に治療して、その後年単位での生存、QOLの改善を得ている発表もありました。
ただし結果論であって、いつでも同じ治療が最善ということはありません。
しかし、こうした症例報告などの積み重ねが、今日の診断治療の基礎になっていることは確かで、学会で報告をして下さる獣医師のみならず、そうした積極的治療を選択された飼い主様にもほんとうに頭が下がります。
そのような方々の上で、より良い治療の提示ができることに感謝いたします。
posted by sora-vet at 11:51| Comment(0)
| 日記
2011年11月18日
腎臓病について
今回は慢性腎臓病についてお話しします。
犬猫の慢性腎臓病は初期の状態で発見されることはかなりまれです。
ごく初期においては、慢性腎臓病はほとんど症状を示しません。
診断には糸球体濾過量というものを測定しないと判断できませんが、動物ではこれを正確に測定することは非常に困難です。
初期〜中期に最も早く発見できる症状は、飲水量の増加です。
この時点では、血液検査の数値には変化がありません。
しかし、実際の腎臓の機能のうち、すでに70%が障害されていると言われています。
この頃から低塩分食や腎臓の血圧を下げる薬、余分なリンや蛋白を吸着する薬を使ってあげると、寿命はほぼ倍に出来るというデータがあります。
したがって、中齢以上の子は定期的な尿検査を心がけてあげましょう。
中期には、体重減少、食欲不振などの症状を認めます。
この頃には、腎臓の機能としては20%程度しか残っていません。
治療としては脱水症状が出ていなければ初期とほぼ同じです。
末期になると重度の脱水症状や嘔吐、貧血などを認めるようになります。
この時期は、腎臓の血圧を下げる薬はもう適応ではありません。
脱水症状を少しでも改善させるために、皮下補液や経口補液、胃潰瘍の治療、貧血を抑えるための造血ホルモンの投与などを行います。
貧血は腎臓で産生される造血ホルモンの不足によって起こると言われていますが、慢性腎臓病の患者さんでは免疫機能も落ちているため慢性感染症を持っていることも多く、炎症による貧血と鑑別が難しいことも多いです。
また、胃潰瘍からの慢性出血も原因としてありますので、盲目的に造血ホルモンの投与を続けることはせずに、1〜2週間使って効果がなければ中止したほうがいいでしょう。
当院では、皮下補液はご自宅で行なっていただいています。
以前は通院で行なっていたのですが、例えば同じ500mlを1週間に投与する場合でも、1回に500ml入れるより、1日1回(理想的には2回)70mlづつ入れてあげたほうが、はるかに患者さんの調子はいいように思われます。
また、腹膜透析という方法を行なっている病院もありますが、非常にいい方法だとは思いますが、1回ですが麻酔処置が必要なことと、毎日の処置に非常に時間がかかり、オーナー様と患者さんの負担が大きいことなどを合わせ、当院では行なっていません。
また、経口補液も非常に重要で、慢性腎臓病の患者さんには、どのステージであっても少しでも多くお水を飲ませてあげましょう。
そのためには、いつでも飲みたいときに飲めるように、たくさんお水をおいてあげたり、水道から飲むのが好きな子には少し蛇口を捻っておいて、ぽたぽたと水を垂らしておいてあげるといいかもしれません。
慢性腎臓病は、早期に発見してあげれば、かなり長期生存が望める病気ですので、定期的な尿検査と体重に変化や飲水量の変化などに少し気をかけてあげてください。
犬猫の慢性腎臓病は初期の状態で発見されることはかなりまれです。
ごく初期においては、慢性腎臓病はほとんど症状を示しません。
診断には糸球体濾過量というものを測定しないと判断できませんが、動物ではこれを正確に測定することは非常に困難です。
初期〜中期に最も早く発見できる症状は、飲水量の増加です。
この時点では、血液検査の数値には変化がありません。
しかし、実際の腎臓の機能のうち、すでに70%が障害されていると言われています。
この頃から低塩分食や腎臓の血圧を下げる薬、余分なリンや蛋白を吸着する薬を使ってあげると、寿命はほぼ倍に出来るというデータがあります。
したがって、中齢以上の子は定期的な尿検査を心がけてあげましょう。
中期には、体重減少、食欲不振などの症状を認めます。
この頃には、腎臓の機能としては20%程度しか残っていません。
治療としては脱水症状が出ていなければ初期とほぼ同じです。
末期になると重度の脱水症状や嘔吐、貧血などを認めるようになります。
この時期は、腎臓の血圧を下げる薬はもう適応ではありません。
脱水症状を少しでも改善させるために、皮下補液や経口補液、胃潰瘍の治療、貧血を抑えるための造血ホルモンの投与などを行います。
貧血は腎臓で産生される造血ホルモンの不足によって起こると言われていますが、慢性腎臓病の患者さんでは免疫機能も落ちているため慢性感染症を持っていることも多く、炎症による貧血と鑑別が難しいことも多いです。
また、胃潰瘍からの慢性出血も原因としてありますので、盲目的に造血ホルモンの投与を続けることはせずに、1〜2週間使って効果がなければ中止したほうがいいでしょう。
当院では、皮下補液はご自宅で行なっていただいています。
以前は通院で行なっていたのですが、例えば同じ500mlを1週間に投与する場合でも、1回に500ml入れるより、1日1回(理想的には2回)70mlづつ入れてあげたほうが、はるかに患者さんの調子はいいように思われます。
また、腹膜透析という方法を行なっている病院もありますが、非常にいい方法だとは思いますが、1回ですが麻酔処置が必要なことと、毎日の処置に非常に時間がかかり、オーナー様と患者さんの負担が大きいことなどを合わせ、当院では行なっていません。
また、経口補液も非常に重要で、慢性腎臓病の患者さんには、どのステージであっても少しでも多くお水を飲ませてあげましょう。
そのためには、いつでも飲みたいときに飲めるように、たくさんお水をおいてあげたり、水道から飲むのが好きな子には少し蛇口を捻っておいて、ぽたぽたと水を垂らしておいてあげるといいかもしれません。
慢性腎臓病は、早期に発見してあげれば、かなり長期生存が望める病気ですので、定期的な尿検査と体重に変化や飲水量の変化などに少し気をかけてあげてください。
posted by sora-vet at 18:01| Comment(0)
| 腎臓