2011年11月11日

猫の肝臓疾患

今回は猫の肝臓疾患に関してお話しします。

弱齢の猫に肝疾患で多い(とは言ってもかなり稀ですが)のも犬と同様、門脈シャントという病気です。
犬と異なる点は、猫では肝内シャントが多いとされ、肝外シャントに比べると治療がやや困難です。

中齢の猫では、肝リピドーシス(脂肪肝)と胆管肝炎という病気が2大疾病です。
肝リピドーシスは、比較的太っている猫ちゃんが、何らかの原因で2〜3日食べれない状況になってしまうと、体内に蓄積された脂肪が肝臓で代謝される際に重度の肝障害を引き起こす病気です。
一方、胆管肝炎は肝臓内の胆管で炎症を起こす病気です。
どちらの病気も、臨床症状は食欲不振、嘔吐、黄疸などで、検査数値などからではほとんど診断がつきません。
肝リピドーシスの治療は経腸栄養を与えることでステロイド剤の投与は禁忌とされていますが、胆管肝炎ではステロイド剤が第一選択薬となりますので、きちんと鑑別することが重要です。
両疾患の鑑別は、肝生検による細胞、あるいは組織診断でのみ行われます。
超音波検査などでも若干画像上の見え方は異なりますが、確定診断はできません。
また、肝リピドーシスは命に関わる病気で、治療が成功する場合でも食道チューブや胃チューブの設置などが必要で、治療期間も多くのケースでは数ヶ月に及びます。
胆管肝炎に関しても、ステロイドという副作用のある薬剤を長期にわたって投与しますので、きちんと鑑別しましょう。

高齢の猫では、腫瘍などもありますが、最も多い肝酵素の上昇は甲状腺機能亢進症からの2次的なものです。
また、弱齢からも起こりますが膵炎などに併発して胆管が狭窄、あるいは閉塞して黄疸や肝酵素が上昇するケースも非常に多いです。

猫では、犬に比べて肝酵素が上がりにくく、肝臓自体が原因していると考えられる場合は積極的に検査、治療を進めたほうがよいでしょう。
posted by sora-vet at 17:38| Comment(3) | 肝臓

2011年11月07日

犬の肝臓疾患

今回は犬の肝疾患の中で、特に頻度の高い病気について書きます。

若い犬で問題となることの多い肝臓の病気では、門脈シャントというものがあります。
この病気は、本来肝臓の門脈という血管に流れるべき血液が、血管の先天性の異常により肝臓を介さずに直接心臓へ戻ってしまうという病気です。
症状の強い子では、発育不良、尿路結石、高アンモニア血症による神経症状などが起こりますが、去勢や避妊手術前の血液検査で偶然見つかるケースも多いです。
診断は、レントゲン、エコーなどで小肝症を確認し、アンモニア・胆汁酸負荷試験(血液検査)などで肝機能低下を認める場合に血管造影やCTなどで確定診断をします。
基本的には外科手術で治療する病気です。

中齢では、胆嚢粘液嚢腫という病気が多いです。
この病気は、本来サラサラである胆汁が、高脂血症などの影響で固く、ゼリー状になってしまうという病気です。
進行すると、突然の黄疸や胆嚢破裂を起こします。
治療としては、基本的には外科的に胆嚢を切除する病気ですが、初期の場合は高脂血症の治療や胆汁排泄を促進させたりすることで維持、改善できる場合もあります。
胆嚢の病気では、犬にも胆泥症、胆石はありますが、通常黄疸等が出ない限り手術をすることはほとんどありません。

高齢では肝臓に関する腫瘍の頻度が増加します。
肝臓に発生する腫瘍では、肝細胞癌、胆管癌、血管肉腫、リンパ腫、転移性腫瘍などがあります。
このうち、リンパ腫は抗癌剤治療の適応になることが多いです。
肝臓にある孤立性の腫瘍であれば、外科手術により肝葉切除を行なって治療できる可能性があります。
ただし、肝細胞癌などでは、慢性肝炎や肝細胞の変性が進んでいることが多く、そちらの原因疾患の治療が難しいことも多いです。
血管肉腫は、多くの場合肝臓単発でなく、脾臓から発生していることが多いため、肝臓に関して外科的治療がされることは少ないです。

その他、肝膿瘍、慢性肝炎、銅蓄積性肝障害等がありますが、前回にお話ししたように、肝臓の数値の上昇原因としては2次的な肝障害が最も多いため、そのあたりの病気の鑑別が最も重要でしょう。
posted by sora-vet at 09:38| Comment(0) | 肝臓

2011年11月01日

肝臓の病気について

肝臓は昔から沈黙の臓器などと言われています。
実際、肝疾患では、かなり重症化しないと症状を示さないことが多いです。

通常、肝臓の病気は、ひどい黄疸の症状が出ている場合を除き、スクリーニング検査によって検出されます。

血液検査で肝臓の状態を見る場合には、肝酵素の測定と肝機能の状態を評価します。

一般に肝臓の数値と言われるものは肝酵素を示すことが多く、ALT、AST、ALP、GGTなどがあります。
肝酵素の上昇は、肝臓自体がダメージを受けている指標として評価されますので、実際に肝臓がどのように悪いかや、肝臓の機能を示すものではありません。
また、肝酵素は他のホルモン性疾患や、薬剤によって非常に変動しますので、肝酵素の上昇だけで病気や治療が決定することはほとんどありません。
ただし、一般状態が良好なときは肝臓の働きを助ける薬を使ってみて、1〜2週間後に再評価することはあります。

肝機能はAlb、T.Bil、T.Cho、BUN、NH3、TBAなどで評価されます。
実際に肝臓の機能低下があるかどうかを検査するもので、こちらは場合によっては治療に直結します。
肝臓自体は、非常に再生力の高い臓器で半分以上を切除しても健康ならば1ヶ月程度で元の大きさに戻ります。
しかし、慢性疾患から肝機能が低下している場合は、特定の病気を除いてはほとんど再生しません。
そういった病気の時は肝臓の保護療法や、合併症の治療が行われます。
肝臓に対する処方食も、実際に効果があるのはこうした病気の時で、肝酵素の上昇時に使用するものではありません。

肝機能低下がなく肝酵素の上昇を認めた場合、当院では他の症状や検査数値とあわせて、ホルモン性疾患の除外を行います。
肝臓以外の病気がなく、一般状態も良好でしたら1〜2週間後に肝酵素の再評価を行います。(この間、症状がなければ治療しないことが多いです)
持続性の肝酵素の上昇を認めた場合は、レントゲンや超音波などで画像的に評価をするとともに、より感度の高い肝機能検査をします。
それでもなお診断がつかない場合は、肝臓の組織を一部採取して生検検査を検討します。

ここまでして、やっと診断がついて治療方針が立ちますが、場合によってはそれでも診断がつかないこともあります。
しかし、肝疾患はきちんとした診断に基づいた治療でないとほとんど効果がなかったり、逆に悪化させる場合がありますので血液検査のみで投薬を長期に続けることは避けたほうが良いでしょう。
posted by sora-vet at 18:15| Comment(0) | 肝臓